ローファン王国物語
key story Ⅳ
いつ頃からだったか、定かではない。
財宝探しの旅に出ていたジェインが、ここローファンに帰ってきたのは二週間
ほど前のこと。
このときすでに噂話は町中で流れている状態だった。
『町中で』と言ってもジェインのような盗賊や、金品を盗むゴロツキたちの間で
知らないものはいないということで、一般の市民の間で流れるような噂話では
無い。
普通、このような財宝や儲け話の類は、他の同業者にはあまり知られたくは
無いものだ。それぞれに信用のおける情報ルートがあり、そこで得た情報は
己の頭にのみ収め、行動に移す。
一つの情報が同業者の間で噂になるのは、大概、すでに攻略し終わったあと
のことだ。
「…未攻略の物件が噂話になるなんて滅多に無いんだがな…」
ひとり言のようにジェインは言った。
「一体誰が、この噂話を?」
エルトの問いに、ジェインは一瞬考え込むように目を伏せ、やがて小さくため息
をつき、話し始めた。
~地下の噂・ジェインの話~
旅先から帰った日、まず一杯やるかって小鹿亭に行って飲んでたら、顔見知り
の情報屋が声をかけてきたんだ。そいつは付き合いの長い、信頼できる情報屋
だった。
「ジェイン、帰ってたのか。どうだった?」
「おかげさんで儲けさせてもらったよ」
「そうか!それは良かった!」
俺たち盗賊は、情報屋から財宝や儲け話の情報を買う。…情報屋ってのは妙な
噂のある場所や、自分が「何かあるな」と見た場所を独自で調査してその情報を
客に売るんだ。
情報屋にとって、売り主が儲けて帰ってきたってことは、自分の売った情報が確
かで、高確率で儲けられるってことになる。それは彼らの情報収集能力の高さを
周囲に知らしめることになり、そのまま商売繁盛に繋がるわけだ。
「…そうだな。あんたならスーリィの森の”巨木の笛”とか…あ…」
「?…なんだ?」
奴はなんかこう…、意味ありげに笑ってた。奴がこういうカオして話すネタは、
『儲けや信憑性が薄いが個人的には面白い』って感じのもんだ。
そのまま俺の隣に座り、声を落として、言った。
「王城の西の塔の地下に、財宝があるらしい」
「…城の塔だって?またえらく近場のネタだな」
「ああ。おまけにその財宝は、と~んでもないモノ…らしい」
「なんだそれ?」
:;;;: +*+: ;;;: +*+ :;;; :+*+ :;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+
『城の地下で、王家の宝が永き眠りから目覚めた
宝を手にしたものは、王と等しい大いなる富と名誉を得るだろう
ただし、宝を護る白き扉は、この世のいかなる技を用いても
決して開くことは無い』
:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+* +:;;;: +*+ :;;; :+*+:; ;;: +*+ :;;;:+*+
「…… …」
「それを手にすると、この国を統べる王と同等の力を得ることができるんだと」
「…また随分と大層な」
「だよな。まぁ、『世界を手にすることが出来る』とかに比べりゃささやかだぞ」
と情報屋の笑いはちょっと小馬鹿にした様子で、財宝のことはあまり関心が
無いようだった。
「この話、今、街中のお客さんが知ってるぜ」
「じゃ、もう誰かが攻略してんじゃねぇのか?」
さっきも話した通り、俺のような『盗賊のお客さん』たちは、自分の得た情報を
他の同業者に知られたくない。先回りされてお宝を持ってかれちまうからな。
でも情報屋は俺のこの台詞を聞くと、待ってましたとばかりに口の端を上げ、
右手の人差し指を立てた。
「誰も攻略して無いんだ」
「え?」
「これだけ噂話が出回ってるのに、今日まで誰も、財宝を手にしていない。
…これがこの話の面白いところさ。それにもうひとつ…
…分からないんだ。この噂、一体誰が流したのか」
情報屋と別れた後も、何人かの同業の知り合いから『城の地下のお宝の噂』
を聞いた。
『王家の財宝』とやらにはどこか胡散臭さを感じたけど、何でか誰も攻略して
無いってことと、『この世のいかなる技を用いても決して開くことは無い』という
その扉に興味を持った俺は、噂を聞いてから3日後、城の地下へ向かった。
「…後は、あんたも知ってる通り、三度あの扉に挑戦してるが、開けることは出来
てない」
口調は落ち着いているが、前を見つめたジェインの目には、悔しさが滲んでいる
ように見えた。
一気に麦酒を飲み干す。
そんなジェインの様子を見て、エルトは言った。
「…その鍵はたぶん、どんな一流の鍵師だろうと開けることは難しいだろうな」
ちらりとエルトの顔を見つめ、ジェインは小さく笑った。
「やっぱり、あれは魔術がかけられているんだろう?難解な鍵穴の構造の上、
更に魔術がかけられている。色々試してみたけど、特定の条件かあるいは人物
でないと解除できないようになっている。何となくだが…その魔術は鍵だけでなく、
城の地下全体にもかけられているんじゃないのか?」
「……そこまで解っていながら、なぜ何度も危険を冒して王城の地下に侵入を?
そんなに財宝に興味があったのか?」
「そうだな。鍵師の性だろうな、難解な鍵ほど楽しくて開けたくなるんだ。そんな
扉に護られた財宝ってのも興味はあるけどな」
「君は、盗賊じゃなかったのか」
「俺は元々、鍵師だったけど、趣味で財宝探ししてたらそっちのほうに時間を
掛けることが多くなってきて…まぁ旅すると何日も留守にするからな、いつの間
にか盗賊みたいになってたんだ」
「じゃあ今は鍵師の仕事はしていないのか?」
「いや、依頼があればしている」
ジェインは串焼きの乗った皿に手を伸ばしたが、皿の上にあるのは肉の刺さっ
ていない串のみであった。ジェインが話している間にエルトがほとんどたいらげ
てしまっていたらしい。
「マスター、串焼きと麦酒二つ。…ではジェイン、依頼したいのだが?」
エルトはトパ鳥のモモ串焼きと麦酒を追加注文し、そして依頼した。
「依頼?」
「ああ、受けてくれるか?」
エルトの口調はあくまでもジェインの判断に任せるかのようだったが、表情
にはジェインの拒否を許さないような強さが見えた。
「まぁ…話を聞こうかな…」
next : key story ⅴ
・
・
・
・
:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+
登場人物紹介

ジェイン・L・ライナード (21)
各地の財宝を求めて旅する、元鍵師の盗賊。